待ってましたインサイドストーリー

平塚市図書館にもやっと「アキバの帝王」が入着した。

人気作家、新堂冬樹さん(以下敬称略)の最新作である以上に、今をときめく秋葉原、Akibaのアンダーグラウンド、オタクの文化を伝えてくれる、ちょっとしたドキュメンタリーのような読み方もできる作品である。

新堂さん自身も芸能事務所を経営しており、そのホームページで所属タレントを見たところ、女性アイドルを中心とする事務所のようだから、立派なインサイダーだ。本書を読む限り、アイドル事務所稼業は好きな人には堪らない魅力があるようだ。大人買い、という言葉が本来象徴するように、子供の時期に憧れ欲しがったものを、経済力がついた段階で量的にも質的にも我が物としたい、そういう衝動。

本作のモデルは国民的アイドルAKB48の経営チームと秋元康氏であることは言うまでも無い。秋元康氏の行動を見て「大きなお友達」とか「Top of TO(Top Ota)」(オタクのボス)であるかのように感じる人もなかにはいるらしいことがどこだか失念してしまったが何かの記事に書かれていたように記憶する。

ところで、理系の人達は言ってみればみなオタクである。例えば技術者を技術オタクと上から目線で揶揄する御仁は、技術者になりそこねた自称管理職やら、枯れてしまって技術者を卒業した人と思って間違いない。オタクというのは職業や技術に真摯な人の総称であって決して蔑称ではない。が、その方向が実生活と乖離して社会生活を破綻させるようになったり、治安に脅威を与えたりする状態になると、マニアックという言葉同様のややネガティブなニュアンスを帯びることになる。これは例えば、ハッカーという言葉に本来ダークな意味は含まれないのだが、クラッカーと呼ばれる反社会的な存在が知られると、コンピュータと通信に精通した人はみなその予備軍であるかのような誤解を生むことになった、その経緯に通ずるところがある。人的風評被害と言っていい。

さて、アイドルのオタクの話であった。件のAKB48のライブに行くと、MIXと呼ばれるディープでコアなファン独特の掛け声に一般層のお客さんやライトと呼ばれる普通のファンは度肝を抜かれるようだ。その生態と言ってはいささか失礼に過ぎるが、日頃どのような活動を行っているのか、本書でその一部を窺い知る事ができたのは嬉しかった。

AKB48のファン層は今や幼児からシニアまで広がり、他国には見られない独特の文化を形作ることになったのだから、これをモデルにした創作ももっと出てきていてしかる。にかかわらず、私の知る限り、ストライクゾーンど真ん中の小説というのは、本作が初めてではないか。その背後にあるとも噂もされるダークな一面を恐れて、ということもあるかもしれないが、インサイドストーリーは本書でもうお腹いっぱいとはなっていない。まだまだ飢餓感があると感じるのであるが、どうだろう。