伽藍を出てバザールで生きるのは大変です

東日本大震災からまもなく半年。

この大震災で日本人のメンタリティは大きく変わった。絆、家族や友人や社会との繋がりの価値に目覚めた。これまでは、他者に無関心なんだろうなと考えられてきた若年層が被災地ボランティアで活躍した。地に足の着いた婚活をする人も激増したという。そしてこの震災で特に役に立ったのがTwitter、ソーシャルネットワークサービスだったというのも何やら象徴的に感じる。

人々の記憶も今回リセットされたようなところがあって、震災前のことは忘れられ、震災後の記憶で上書きされているような印象。人々に記憶しておいてもらってなんぼ、という仕事をしているなら、今一度、「刺さる」ような活動が必要のはず。創作にかかわるアーティストや著作者もその範疇といえる。震災後に有名人の露出が際立っているのは、善意が第一はもとより、知名度と評判の再確立という面もあっただろう。

大震災にインスパイアされたという創作としては、例えば直後に出版された大前研一「日本復興計画」は印税を全額復興支援に寄付ということでも注目された。現在平塚市図書館にも所蔵される橘玲「大震災の後で人生について語るということ」もこのインスパイアものであって、タイトルからはちょっと哲学的な香りも期待するが、内容はいつもの橘玲節であると言っていいと思います。

日本の財政は破綻してるから、混乱に巻き込まれないように、金融資産は国際分散すること。人的資産も会社と一蓮托生じゃ駄目、伽藍を出てバザールで生きよ、と。ここらへんを詳しく説明した既刊で平塚市図書館に所蔵される代表的なものを以下に示します。

  1. 残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法 2010年
  2. 貧乏はお金持ち-「雇われない生き方」で格差社会を逆転する- 2009年
  3. 黄金の扉を開ける賢者の海外投資術-THE TRAVELING MILLIONAIRE- 2008年
  4. お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方-知的人生設計入門- 2002年

とはいえ、普通の人が会社(伽藍すなわち閉社会)を辞めてフリーランスのような生き方(バザールすなわち出入り自由な開放型コミュニティ)で生きるのはかなり難しい。大多数の人にこれを勧めるのは無責任だ。それに、大震災のような破滅的な事件が起こったとき、消費が長期にわたってガタガタにならないのは、地域的にもリスクヘッジされた大企業に雇用されている人々がそれなりに安定した消費をしてくれるからだともいえる。

大企業で飼い殺しになるなと勧めても、大企業は居心地がすこぶる良くてだったら飼い殺ししてくれて結構、そういう忠誠心が育まれてもそれはおかしなことではない。大多数の人にとって、それが一番幸福な選択であって、そういう方々に橘玲さんの「伽藍からバザールへ」は迷惑なお誘いにしか聞こえないはずだ。

著者さんはなんだかんだ言っても米国大好きもしくはお手本としてリスペクトしているようなところが滲み出ているように感じるのだが、日本化と揶揄され、衰退傾向著しい米国を、検討なく模範とする論調はもやは説得力をもたない。自分の運命は自分で切り開く意欲があり、リスクを覚悟できる人は、伽藍を出てバザールに生きるべきだ。これは間違いない。だけど、それは少数でいい。大多数の人は、伽藍を守れ、もっと住み心地のよい伽藍にせよ、これでいいのではないか。

ビジネス書を読むのはたった400万人です、ということだが、このトップクラスの400万人とて、この御時勢バザールで継続的に生き残って行くのは大変だろう。バザールで生きることができるのは、ビジネス書でいえばビジネス書を書く側に立てる層とその周辺に限るのではないか、などとネガティブなことを考えたくもなる昨今の日本をとりまく閉塞感である。

最後となりましたが、東日本大震災の被害にあわれた方に心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復興をお祈り申し上げます。この祈りと絆を大切にする気持ちをずっと大切にします。