リーダーシップ論としてのジョブス伝説

アップルのスティーブ・ジョブスが電撃引退とのニュースが記憶に新しいが、これでまたジョブス伝説の出版ラッシュに拍車がかかる。偶然にもこの最高のタイミングで出版された「ジョブズ・ウェイ」は、スティーブジョブスが自らリクルートして幹部に据えたジェイ・エリオット氏によるもの。まさにインサイドストーリーである。

本作にも「成功は細部に宿る」という章があるが、大成功して勝ち逃げの形となることで、誰も貶めることができず、落日も迎えようの無いサクセスストーリーはベンチマークの課題として最高の事例である。細部が明かされれば明かされるだけ情報の価値が加わる。アマゾンの書評でも絶賛、という様相である。

ただ、私個人として気になったのが、著者がジョブスの腹心であったのが1985年まで、ということ。本書はジョブスのリーダーシップに着目して書かれているのだが、ジョブスが駆使したと主張されているiLeadershipは、1985年以降については仄聞の類だろう。iPhoneやiPadの時代となってもジョブスのリーダーシップは不変で一貫したものだったのだろうか。

さて、日本でリーダーシップと言った場合、セミナー会社が中間管理職養成コースと称して好む課題であり、部下のモチベーションを維持し、最高の生産性を確保するためにいい上司を演出する方法だと言ってほぼ間違いないだろう。世界をリードする企業のイノベーションを引っ張るトップのリーダーシップとはおよそ似ても似つかぬ話題だ。

洩れ聞こえてくるところでは、ジョブスの下で仕事をするのはきつい、とされる。本書ではずいぶん美化されているというか、そういう面は瑣末なことと無視されているというか、あまり書かれていないのは、著者が技術屋でなく、トップに近いマネジメントであったゆえだろうか。開発現場の技術者は苦労していると聞く。技術者への要求水準は極めて高く、専門のストライクゾーンど真ん中で自尊心を粉砕されるとか。ジョブスは感情的な爆発も抑えようとしているようには見えなかったみたいだ。

それが駄目だと言っているわけではない。イノベーションの達成には妥協は許されない。なにしろ、細部に成功の本質が宿るのだから。中間管理職的リーダーシップなんて、誰もジョブスに期待して無い。

IT系企業経営者としてパーフェクト、これはそのとおり。

この本はどういう人にベストマッチとなるだろう。まず、まだあまりジョブス伝記を読んでないんだよね、そういう方にはわくわくしながら当時の背景を知ることができるでしょう。なにしろ、自分がジョブスにリクルートされた状況まで詳らかにしているのだから。ジョブス物語は飽きるほど読みました、そういう玄人の諸兄には、わざわざ買って読むほどの本かは、ちょっとわかりません。が、そうです。平塚市図書館には所蔵されていて、今のところ予約待ちもあまりないようですので、平塚市図書館でまず借りて読まれるのはいかがでしょうか。図書館の理想的といえる使い方の一つでしょうね。

アドバイスも鮮度が命

東日本大震災後の復興のために、世界的コンサルティングファームのマッキンゼーが音頭を取り、世界の、各界著名人にアドバイスを求めて出来上がった本。「日本の未来について話そう」はそのように演出されているのだが、読んでみると必ずしもそうではない。

7月出版ということになっているが、編集は5月であり、東日本大震災に言及している論文の数は意外にも多くはない。要するに、本が完成しつつあった段階で大震災が起こり、さすがにそのまま出版するわけにもゆかないから、幾人かの寄稿者に再考を求め、震災後対応にした、というところだと考える。

貴重なご意見であることは間違いない。ただ、総じて、グローバルで行け、ガラパゴスは駄目だ、と言っておきながら、書いていただいているのがなんだかんだで親日派ばかり。ドライにこき下ろす論調もあっていいのだが、無い、というのは東日本大震災を受けてお手柔らかになっているのか。さらに、もしドラの(元AKB48運営に携わっていたとされる)岩崎夏海氏がドラッカーにからめて「生き方のリーダー」として日本の役割を提言されている。内容は、なるほど、である。だけど、ここに岩崎夏海さんというのは、この本が日本向けの本であることを明確に示している。これを海外同時発売というのだが、となると、知日派に日本の最新の話題を提供する本、という結構ガラパゴスなポジションになるのじゃないのかなあと考えるのだ。

それでも、貴重なアドバイス集であることに変わりはない。

だが、東日本大震災で、日本人のメンタリティは大きく変わった。さらに、アンディサマーズの言葉ではないが、復興のために資金が必要のため、日本は貧しくなったことは間違いない。今まで出来ると思われたことが、体力的に無理、ということにもなる。

要するに、3月11日を境に、作戦は全部練り直し、なのである。

そういう意味では、この本の企画はボツ、というのがナイーブな流れだと思うのだが、そこは商魂逞しい方々であり、さらに寄稿いただいた各位にも失礼となるから、前述のように、部分的にお化粧直しをして、新しいように演出して、駄目な日本の処方箋のはずだった企画を、激甚災害後の復興計画として再出発させた、この錬金術は流石である。いや、すごい。さらに、海外でも復興関連を提言する格調高いタイムリーな日本論として売れるのだから、二度おいしい。商売人魂すごすぎですな。

以上、なんだかんだと勝手な御託を並べましたが、諸兄におかれましては、ご一読を強くお奨め申し上げる次第です。

伽藍を出てバザールで生きるのは大変です

東日本大震災からまもなく半年。

この大震災で日本人のメンタリティは大きく変わった。絆、家族や友人や社会との繋がりの価値に目覚めた。これまでは、他者に無関心なんだろうなと考えられてきた若年層が被災地ボランティアで活躍した。地に足の着いた婚活をする人も激増したという。そしてこの震災で特に役に立ったのがTwitter、ソーシャルネットワークサービスだったというのも何やら象徴的に感じる。

人々の記憶も今回リセットされたようなところがあって、震災前のことは忘れられ、震災後の記憶で上書きされているような印象。人々に記憶しておいてもらってなんぼ、という仕事をしているなら、今一度、「刺さる」ような活動が必要のはず。創作にかかわるアーティストや著作者もその範疇といえる。震災後に有名人の露出が際立っているのは、善意が第一はもとより、知名度と評判の再確立という面もあっただろう。

大震災にインスパイアされたという創作としては、例えば直後に出版された大前研一「日本復興計画」は印税を全額復興支援に寄付ということでも注目された。現在平塚市図書館にも所蔵される橘玲「大震災の後で人生について語るということ」もこのインスパイアものであって、タイトルからはちょっと哲学的な香りも期待するが、内容はいつもの橘玲節であると言っていいと思います。

日本の財政は破綻してるから、混乱に巻き込まれないように、金融資産は国際分散すること。人的資産も会社と一蓮托生じゃ駄目、伽藍を出てバザールで生きよ、と。ここらへんを詳しく説明した既刊で平塚市図書館に所蔵される代表的なものを以下に示します。

  1. 残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法 2010年
  2. 貧乏はお金持ち-「雇われない生き方」で格差社会を逆転する- 2009年
  3. 黄金の扉を開ける賢者の海外投資術-THE TRAVELING MILLIONAIRE- 2008年
  4. お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方-知的人生設計入門- 2002年

とはいえ、普通の人が会社(伽藍すなわち閉社会)を辞めてフリーランスのような生き方(バザールすなわち出入り自由な開放型コミュニティ)で生きるのはかなり難しい。大多数の人にこれを勧めるのは無責任だ。それに、大震災のような破滅的な事件が起こったとき、消費が長期にわたってガタガタにならないのは、地域的にもリスクヘッジされた大企業に雇用されている人々がそれなりに安定した消費をしてくれるからだともいえる。

大企業で飼い殺しになるなと勧めても、大企業は居心地がすこぶる良くてだったら飼い殺ししてくれて結構、そういう忠誠心が育まれてもそれはおかしなことではない。大多数の人にとって、それが一番幸福な選択であって、そういう方々に橘玲さんの「伽藍からバザールへ」は迷惑なお誘いにしか聞こえないはずだ。

著者さんはなんだかんだ言っても米国大好きもしくはお手本としてリスペクトしているようなところが滲み出ているように感じるのだが、日本化と揶揄され、衰退傾向著しい米国を、検討なく模範とする論調はもやは説得力をもたない。自分の運命は自分で切り開く意欲があり、リスクを覚悟できる人は、伽藍を出てバザールに生きるべきだ。これは間違いない。だけど、それは少数でいい。大多数の人は、伽藍を守れ、もっと住み心地のよい伽藍にせよ、これでいいのではないか。

ビジネス書を読むのはたった400万人です、ということだが、このトップクラスの400万人とて、この御時勢バザールで継続的に生き残って行くのは大変だろう。バザールで生きることができるのは、ビジネス書でいえばビジネス書を書く側に立てる層とその周辺に限るのではないか、などとネガティブなことを考えたくもなる昨今の日本をとりまく閉塞感である。

最後となりましたが、東日本大震災の被害にあわれた方に心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復興をお祈り申し上げます。この祈りと絆を大切にする気持ちをずっと大切にします。

言いたいことは5文字にまとめよ

日本語では四字熟語が好まれる。

小学校の国語の試験に「□肉■食」の□と■を埋めよ、なんて問題が出ることは平成教育委員会を見ていても窺い知る事ができる。焼肉定食と答えておきます、定番の寒いネタですが。このように、表記上のマジックナンバーは「4」だ。一方、発音する音でいえば、俳句や短歌は「5」と「7」であり、単純ではない。

漢字圏全体ではどうだろう。漢詩、こちらは自分に素養が全くないのでWikiの受け売りだが、漢詩では「4」も「5」も「7」も使われるようだが、数を固定するというアイデアは普遍的のようである。

認知心理学は西欧の学問と言うわけではないが、マジックナンバー7という考え方を提唱したのは間違いなく英語圏の人であった。なんでも7つ以下にまとめると据わりがいい。覚えてもらえる。議論の場では、言いたいことを5語で言え、なんて無茶ぶりで相手を瞬間黙らせる人も見たことがあるが、確かに7以下。

仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌、南総里美八犬伝の「8」。視覚的には8角形は安心感をもたらすが、覚えるにはちょっと多いと確かに実感する。

枕が長くなったが、今日読んだ2冊のビジネス書が偶然両方とも5文字でエッセンスを示していた。DELTAとSPICEだ。両方5文字。三角形も香辛料も内容には全然関係無い。単に語呂合わせ。5つのキーワードの頭文字を繋げてDELTAとSPICEである。だけど今後その本が話題に出るとき、やっぱりDELTAだSPICEだと語られるのであろう。こういう語呂合わせの良し悪しだけで本として記憶に残るかどうかが決まるわけではないが、記憶に残る効果を確信しているからこそ、著者さん達も使うのだ。

DELTAは、「分析力を駆使する企業 発展の五段階」でのData, Enterprise, Leadership, Target, Analysisの5語。大企業向けに分析力を育て定着させてゆく手順を示す。本としての構成もそこで説明される内容もPlan, Do, Seeのような完成された枠組みにきっちり合わせて構造化されているが、その枠で支えられるはずの内臓とか筋肉がいまいち見えてこない。企業に分析屋ばっかり増えて権限が与えられるというのは、MBAを出たばっかりの理屈っぽいヤな奴を経営陣が偏重するあまり、数字だけ一人歩きして既存事業は切り売りされ長期安定低落のものばかり残り、イノベーションの芽が全部摘まれるという、どこでも見られる景色が浮かんでくる。分析をする人達も必要であり、武器にもなるし、駆使するものいいが、これからはイノベーションですと言ってるそばから、今見えてる数字がすべてです、ってのもアクセルとブレーキを両方踏むようなもんですな、使い古された表現だけど。

この本、残念ながら今のところ平塚市図書館に所蔵されない。所蔵されるのも利用者にはありがたいが、あえて所蔵しないというのもひとつの見識といえる。この本の前作にあたる「分析力を武器とする企業」が現在のところ平塚市中央図書館に所蔵されている。

さて、もう1冊、SPICEのほう、「瞬間説得」は、あまり構造化された構成ではないが、それは砕けた内容には相応しいと感じる。目次を見てもどこをどう読んでいいのか見当もつかずに斜め読みを目論む読者は私も含め困ってしまうが、結論からいえば全部読むことをおすすめするし、拾い読みしても十分に得るところがあるのは、個々のエピソードが秀逸だからだろう。日本でこれをやったら、トラブルが一発で収まるどころか、瞬間炎上になるだろうな、というのもあった。地域性や文化の違いは誰かがどこかでフィルターをかけなければ使える内容にはならないという指摘をするよりは、そういうフィルタは読者が自分で考えるということを前提とすれば、普遍的に使えるメタなアイデアなのではないかと感じた。

私に利益となったのは、人々は成長指向と固定指向(だったよな)に大別され、行動パターンが全く異なるというくだり。最近の自分に思い当たるところあり、考え方と行動を即刻改めることを強く決意いたしました。そして感銘を受けたところ、人種のバイアスを学生に思い出させただけでテストの平均点が変わる実験結果。そしてオバマ当選により、アフリカ系の平均点が大きく改善したこと。人種に限らず社会には色々なバイアスがあるが、その存在と影響をよく知った上で、自分のパフォーマンスをアップする、少なくとも悪化圧力を受けないように防衛をしてゆくことが必要なのだと、強く瞬間説得されてしまいました。

単純性(Simplicity),私的利益感(Perceived self-interest),意外性(Incongruity),自信(Conidence),共感(Empathy)でSPICEというが、SCだけ決まってて、5文字だとSPICEかな、説得にはスパイスが必要なんだよ、って感じでSympathyのかわりにEmpathyにして、Iを選び、Pを無理やりこれにした、ってのはあまりにうがった見方だろうか???

この四文字熟語と、英語5文字の組み合わせ、しばらく試してみたい。オマージュですので。パクりじゃなくて。

中堅世代の危機を乗り切るMOJO開運の書

社会人になったばかりの時期にビジネス書を読みふけるという余裕のある若手でやり手なビジネスマンというのも、あまり多くないはずだ。むしろ専門のほうの勉強やOJTに時間が必要であって、それよりはちょっとメタな層で血肉となる、短期的というより長い目で見てはじめて価値をもつような本は、なかなか手が出ないというのがありがちな状況ではなかろうか。

しゃにむに全力疾走の時期は終え、ちょっと落ち着き、迷いが生じたあたりで、ビジネス書にヒントを求める。マーシャル・ゴールドスミス(他)著『コーチングの神様が教える「前向き思考」の見つけ方』の表現を借りて、MOJOを一度は得て、一旦は失い、そして取り戻す段階にあると表現することができれば、すなわち、本書は中堅世代にありがちな危機克服のマニュアルなんだな、ってな考えに行き着く。

MOJO(モジョ)、すなわち、

今、

自分がしていることに、

前向きな気持ちをもつこと。

それは自分の心の内から始まり

外に輝き出るものだ。

と本書では定義され、ときにフローやらゾーンとも呼ばれる状態。和風に言えば、憑依でもされたかのようなノリにノった状態。

ビギナーズラックなんて言葉もあるが、若いうちは勢いで成功することもあるし、恐いもの知らずで勝ちまくるが、ある年齢を過ぎると、チャンスの女神様の寵愛を受けっぱなしという状態は見られなくなる。開運グッズやパワースポットにはまりたくなる時期だ。

著者のマーシャル・ゴールドスミスはエグゼクティブ向けコーチングの権威とされるが、その著作がエグゼクティブ予備軍というか、企業の中堅層が数の上では読者の多くを占めると考えられる。

MOJOを手にするには、アイデンティティ、成果、評判、受け容れること、という4つの要素がすべて揃う必要がある、という。これらがどのように毀損され、新たに獲得できるのか、そのヒントを示してくれる。この4つの要素で分析するというフレームワークを具体的に示してくれたことが、本書の最もアリガタヤなとこなのだと考える。

特に、最後の「受け容れる」が、読んだ自分への最重要なプレゼントとなってくれたと思う。順序は最後なのだが、自分に何か深刻な問題があるらしいことを「受け容れる」のが最初にあって、それが「アイデンティティ」の再分析に始まる4段階のMOJO再獲得の旅への入り口となるのだと感じた。

さて、多くの方にとても役に立つであろうこのビジネス書、近隣の図書館で探すと、現在のところ唯一、平塚市立図書館が保有する。平塚図書館の書籍を選定される方のお目の高くてらっしゃることに感謝するばかりである。